おんがく、あれこれ

 帯広が誇る鋭角パンクバンド黄金クリムゾン。俺が彼らのライブを初めて見たのは、2010年11月。遠藤ミチロウのオープニングアクトで出演したときだった。尺はわずか20分程度だったと思う。正直に言おう。客は思ったよりも少なかった。にもかかわらず、極低温のライブハウスを四の五の言わずに、1・2・3・4のカウントで、一気に最大戦速まで加速させるハイスピードで不審船を撃墜するイージス艦みたいな、タイトなロックンロールをぶちまけた。そして炎上した。俺のココロが。完全に。

 不審船(俺)はステージの大海原を爆走するイージス艦の全方位レーダーに完全に補足され、逃げ場を失っていた。逃げようにも、時速8万ノットの超快速で疾駆するイージス艦が追いかけてくる。俺にジャミング装置はない。光学迷彩なんてもちろんない。1981年製の、肉と骨でできたヤワな船体だ。だから気がついたときには、ミサイルみたいなギターとベース、さらにドラムという名のバルカン砲による全開フルスロットルの完璧な爆撃を受け、俺の心は完全に打ちのめされたていた。からっぽだ。からっぽの世界だった。そのからっぽの世界になった脳みそにダイレクト注入するかのごとく、極鋭角のスルドすぎるパンクが俺のカラダを蝕んでいった。

 それは快感だった。やったことはもちろんないけれど、きっと高純度のドラッグのに近い効き目だったのではないか。

 そして遠藤ミチロウ。ギター1本で、かくまでも人間の怨嗟や憎悪を歌うことができるのかと、それはそれは恐れ入るパフォーマンスだった。鬱屈しながら、しかし突き抜ける。三上寛と入り口は異なるが、出口は一緒。そんな不気味さに驚きつつ、アンコールがはじまった。なんと、黄金クリムゾンの3人とスターリンのカバーを絶唱。

 「毒殺!毒殺!毒殺!」

 それはキレイで安心して着地できるブルーハーツ(俺は大嫌いだ)的なOSとは180度真逆にある、殺気と怒気が束になって襲い掛かってくる、鋭角にさらに鋭角の磨きがかかった切れ味の鋭い、鋭角の鋭角なパンクだった。

 仏像でいえば不動明王。

 ファイナルファンタジーならバハムート。

 マイルス・デイヴィスのアルバムで言えば「ダーク・メイガス」。

 憤怒の面構えでメガフレアを繰り出し、聴き手(俺)のクソみたいな日常と煩悩をマッハで焼失させる。これは菩薩だ。みうらじゅん的に言えば、ロックンロールによる救済だ。

 安易でヤワでデリケートでクソみたいな俺のハートは、不動明王に完全に燃やされた。

 「こんなバンドが帯広におったんや!」

 俺は降参して、黄金クリムゾンのファンになった。

 そして今、俺の脳みそは黄金クリムゾンに占領されている。

 北海道のやや真ん中にある冷凍都市、帯広で活躍する”高速ブルースパンクバンド”こと黄金クリムゾンと、青森を拠点にイカしたロックンロールを響かせているWAYBARK(ウェイバー)のライブが2011年1月23日、帯広のライブハウス「REST」で開かれた。

 黄金クリムゾン、WAYBARKの2バンドで札幌、北見、帯広、小樽を回る北海道対バンツアー「黄金クリムゾン×THE WAYBARK
~夏の魔物 北海道完全感染計画~北海道TOUR 2011」と銘打った道内ライブの3日目。初日の札幌HALL SPIRITUAL ROUNGEもかなりにぎわっていたが、帯広RESTも負けちゃいねぇ。黄金クリムゾンのホームタウン帯広では、そりゃ盛大で骨太で高速なパンクロックを鳴らしまくっていた。

 んがしかしWAYBARKも負けちゃいねぇ。ボーカルのだいち69(今年で25歳!)のアグレッシブなパフォーマンスを交えた歌唱で、「俺、黄金大好きだけどWAUBARK見るのは初めて」という帯広のロック男子(20代後半)を「うわ、超すげぇ、まじかっけええ」と感動の渦に巻き込むほど、イカレタまくったロックンロールを炸裂。爆裂。

絶唱するだいち69(WAYBARK)2011.01.23@帯広REST

絶唱するWAYBARKのだいち69

Johnny(WAYBARK)

Johnny(WAYBARK)

 WAYBARKの曲名は、まだ全部アタマに入っていない。でも彼らの1千円のアルバム「マイ・ジェネレイション」収録の「happy happy ~寂れた町の冬~」は、「すぐに曲名を覚えたい!」と思いたくなる曲だった。ロックンロールのすきまに、突如エアポケットのように現れるスローパンク。ギターのノイズがフェードイン状に強まっていって、北国特有の極低温からのカタルシスを爆発させる・・・。みたいな曲だ。曲の雰囲気は大幅に異なるけれど、この驚きは2004年くらいにメジャーデビュー前の50回転ズ関西で見たとき、彼らが鳴らした「天王寺エレジー」に衝撃を受けたのと、ほぼ同じ衝撃を感じた。この曲には彼らの可能性を感じたなぁ。

 で、WAYBARKの次が黄金クリムゾン。彼らのいいところは、語りたいことを音塊にこめていること。アンプから破壊力と殺傷能力の非常に高い、鋭角的で攻撃的な音を出している、北海道でも稀有なパンクバンドだと直感している。そんな黄金クリムゾンのメンバーは、シンタロウ(vo&gtr)、ちゅんちゅん(bass)、Shinya(drums)の3人。

 とにかくすごいのが、ドラムとベースの2人だ。Shinyaはビースト系なパンチ力のあるドラミングなのに、たたき出したパワーが一か所にとどまらず、ツボをつくように的確に解放するような、突き抜けるリズムを刻む。そしてその突き抜けるリズムを追いかけるように、ちゅんちゅんのベースがリズムとリズムの谷間を接着剤のようにつなぎとめる。元ギタリストということもあってか、ピックで手数の多いベースを弾くのがうれしい。これがライブをこなすごとにベースの振動力が強まっていく(あくまで勝手な外野の意見)ような気がする。それは「ゴールデンカップスのルイズルイス加部も、こんな感じだったんじゃないか」という予感すら抱かせるほどだ(あくまで勝手な外野の意見)。

 だが、この2人だけじゃぁ黄金ロックは成り立たない。3人のメンバーではいちばん若手なのに、やたら日本のロックに精通しているシンタロウの頭脳と、ギターノイズが無けりゃだめだ。この日のライブではいきなり弦が2本切れるというハプニングがあったものの、それでも弾きまくる。これはもう、ギターウルフに近い美しさだ。ライブの中盤では客をステージに上げ、ギターを弾かせるというロックアクションもあり、まさかの4人編成体制で、帯広のロックシーンを盛り上げている。熱いバンドだ。