おんがく、あれこれ

 2009年以来、3年ぶり2度目のフジロックへ北海道から参戦した。

 まずは自分のメモ用に、観たバンド/パフォーマーたちを。

■7月26日
新千歳→羽田(飛行機)
東京→越後湯沢(新幹線)
越後湯沢→会場(シャトルバス)
23時50分ごろ、会場に到着

■7月27日(金曜)
・MIMI MAURA feat. 石川道久セッション(オレンジコート)
・DJANGO DJANGO(ホワイトステージ)
・THIRD COAST KINGS(ホワイトステージ)
・THA BLUE HERB(ホワイトステージ)
・ERNEST RANGLIN(フィールド・オブ・ヘブン=中盤を少し)
・MORITZ VON OSWALD TRIO(オレンジコート=昼寝)
・LOS LONELY BOYS(フィールド・オブ・ヘブン)
・HIROMI(上原ひろみ) THE TRIO PROJECT(オレンジコート)
・TOOTS AND THE MAYTALS(フィールド・オブ・ヘブン=通りすがって聴いた?)
・ホウリベ ルウ(ジプシー・アヴァロン=中盤から)
・オールナイトフジ(オレンジコート)
 :DJ AKi & YUUKi MC
 :DEXPISTOLS
 :DJ EMMA

■7月28日(土曜)
・SPECIAL OTHERS(グリーンステージ=序盤の2曲ほど)
・SEUN KUTI & EGYPT 80(グリーンステージ怒涛の2時間!)
・MONO with The Holy Ground Orchestra(ホワイトステージ)
・ONDA VAGA(オレンジコート=気になったので1曲ほど)
・麗蘭(フィールド・オブ・ヘブン)
・ROVO(ホワイトステージ)
・ELVIN BISHOP(フィールド・オブ・ヘブン)
・STEVE KIMOCK(フィールド・オブ・ヘブン=スタート~2曲ほど)

■7月29日(日曜)
・ゴジラ・放射能・ヒカシュー(最狂のオレンジコート)
・奇妙礼太郎トラベルスイング楽団(フィールド・オブ・ヘブン)
・ORQUESTA LIBRE with おおはた雄一(オレンジコート)
・シアターブルック/A 100% SOLARS(フィールド・オブ・ヘブン)
 :Salyu
 :うつみようこ
 :後藤正文
・井上陽水(グリーンステージ)
・ELVIS COSTELLO AND THE IMPOSTERS(グリーンステージ)
・Radiohead(グリーンステージ)

・・・それぞれの詳細は、明日以降にでも。

 2012年7月6日(金曜日)。サントリーホール(東京)で行われた「山下洋輔(Pf) スペシャル・ビッグバンド・コンサート2012」に行ってきた。

 大感動、大興奮の嵐だった。

■山下洋輔スペシャル・ビッグバンド (Yosuke Yamashita Special Big Band)
山下洋輔 Yosuke Yamashita (piano)
金子 健 Ken Kaneko (bass)
高橋信之介 Shinnosuke Takahashi (drums)

[Trumpet Section]
エリック 宮城 Eric Miyashiro (tp)
佐々木 史郎 Shiro Sasaki (tp)
木幡 光邦 Mitsukuni Kohata (tp)
高瀬 龍一 Ryuichi Takase (tp)

[Trombone Section]
松本 治 Osamu Matsumoto (tb)
中川 英二郎 Eijiro Nakagawa (tb)
片岡 雄三 Yuzo Kataoka (tb)
山城 純子 Junko Yamashiro (B.tb)

[Saxophone Section]
澤田 一範 Kazunori Sawada (as)
米田 裕也 Yuya Yoneda (as)
川嶋 哲郎 Tetsuro Kawashima (ts)
竹野 昌邦 Masakuni Takeno (ts)
小池 修 Osamu Koike (bs)
※[池田 篤さん]が病気療養のため[澤田一範さん]に変更となりました。

 ・・・と、こんなメチャクチャな布陣で、クラシック曲の「ボレロ 」(M.ラベル / Big Band Version)、同じく「組曲 展覧会の絵」(M. ムソルグスキー / Big Band Version)、デューク・エリントンのナンバーなど、想像通りメッチャクチャな演奏をドバーっと聴かせてくれた。

■進化の果てはメカゴジラな「ボレロ」

 「ボレロ」は森の奥深くにいそうな可憐な生き物が、怪人ジャズマンどもの音楽と音響で改造されてまくって、最後はメカゴジラみたいに音楽によるカタストロフィをもたらすような、ありえない進化を頼んでもいないのに聴かせる。そんなプレーだった。

 これだけでおなかイッパイなのに、休憩をはさみ、次は「展覧会の絵」。あの冒頭のメロディーがテーマとなって、フリージャズ丸出しのきわめてモーダルなアレンジあり、ドシャメシャ・ジャズあり、豪雨のようなスイングジャズと、「ヨースケさんならそう来るよねぇ」と、痺れっぱなしの驚異的なプレーてんこもり。一歩間違えれば拷問。でもぜんぜん楽しい!1曲(1枚の絵)ごとに拍手が沸いたのも、ほほえましかった。

■「クレイ」にやられた!

 NHK交響楽団の主席オーボエ奏者、茂木大輔とヨースケさんとの「タイマン」勝負で披露した名曲「クレイ」もすごかった。鮮やかな筆さばきで驚異的な水墨画をシュシュっと描いて、見る者のハートをぐわっと鷲掴みするような、そんなミラクル演奏家どうしの一本勝負みたいな演奏。

 ヨースケさんの背中がはっきりと見える席だったこともあり、彼のシャア専用ザクのようにすばやく、するどいプレイスタイルを拝める瞬間でもあった。ああ、たまりまへん。鍵盤の真ん中あたり→高音部→ドシャっとつぶれるような低音。きらきら光るモザイクタイルをこしらえたかと思いきや、不意を突く大きな衝撃とともにタイルが一気に飛び散り、泥沼の中に消えていくような急転直下、ジェットコースターのようなプレイスタイル。そんなヨースケさんのスタイルは、もう国宝級と言ってもいいのでは。

■高橋信之介という凄腕

 まるでジェフ・ベックのように「次にどういう音が来るか」と、音の予想ができない/させない、ヨースケさんのドシャメシャ・ピアノに喧嘩を挑みつつ、時に引き立てつつ、さりげなく「自分の味」も交えて聴かせたのが、30代のドラマー・高橋信之介だった。

 大ホール会場なのに、ドラムセットの音量を叩き方で的確にコントロールし、さらにヨースケさんのドシャメシャ・サウンドに食って掛かるような、鮮度の鋭いシンバルワークを見せ付けたのには恐れ入りました。ものすごいスピードでドラムを叩いているのに、無駄がない。過剰じゃない。けど、恐ろしいくらい手数が多い。

 陳腐な言い方だけど、何かを表現するための想像力と、それを具現化するための技術。その両者が、良いエンジンと良い駆動系(ギア)みたいな関係で、奇跡的なバランスを保ちながら、ドラムを叩くまくっていた。そんなスーパーカーみたいなビートに乗って、ヨースケさんは、あまりにも自由なフレーズを引き出しまくる。

 強力なF1チームみたいな演奏だった・・・。

 2012年7月21日、札幌OYOYOで、1970年代の旧西ドイツのロックバンドCANの元メンバー、ダモ鈴木を迎えたライブがあった。

 今回は、旭川と札幌の2デイズのツアーでの道内ライブ。WATCHMANという日本人ドラマーとライブを繰り広げたが、なかなか、いやかなり刺激的なライブだった。

 ドラム、ダモさん、ギターの3人で「なんだかわかんないけど、なんかおもしろそうな」予感ぷんぷんのセッションが繰り広げられた。こういうセッションは別に珍しくもないんだけど、そこに独特の美意識を放つ西ドイツのロック=ジャーマンロックのエッセンスが加わると、音が恐ろしいほど豊かになる。

■ジャーマンロックの美学!

 スネアよりもタムでリズムを刻み、シンバルは空気を切り裂いたり、振動させたりするような「道具」に成り果てる。そしてギターはリバーブを駆使しまくって、達筆の書道のかすれ具合が、見えない山にこだましていくような、ありえない「山の音」を聴かせる。そうそう、これこれ!これだよ!と、ジャーマンロックという名物料理を味わうような気持ちで、わたし、ニコニコ。

 そしてダモさんは、なんだかポエトリーリーディングみたいな、何言ってるんだかわかんないだけど、がなったりわめいたり、つぶやいたり、周囲の楽器を注視してるんだか無視してるんだかわかんないような間合いで、パフォーマンスを進めていく。

■暑苦しい、そして熱いフロア

 そのダモさんのマイペースを引き立てつつ、時に引き離しつつ、ジャズの即興よりも即興すぎるようなセッションが続いた。ライブ中盤には地元札幌のバンドのメンバーも加わり、ドラム、パーカッション、ギターX2、ベース、ダモさんという大編成で大セッションに。

 エレキベースが加わると、リズムと次のリズムを連結するような一体感が生まれ、さらにパーカッションとドラムがポリリズムをつむぎだすと、フロアが熱くなった。クーラーがない暑苦しい札幌OYOYOのフロアが、余計暑くなった。

 と、久しぶりに予定調和をまるで無視したような、楽しい音楽と出会えた夜だった。レコーディングされた音をライブでやるなんて、つまんねぇじゃん。だったらレコード(CD)を聴け。と、こんなことをマイルス・デイヴィスは言ったもんだが、そう。ライブって「何が起こるかわかんねぇ」スリリングさに富んでいてほしいと願う。

 そのスリリングを表現できるダモさんて、やっぱタダモンじゃねぇな。

 帰り道、汗でべたべたになったTシャツのまま、コンビニでカツカレーを買ったら時計は午前2時に近づこうとしていた。

 2012年6月30日(土曜)は、ヒルトン・ニセコヴィレッジ(ニセコ町)で開かれた「森のカフェフェス」に行った。

 野外コンサート主体の「夏フェス」なんですが、会場内に出店しているお店が、そのイベント名のとおり「カフェ」が多数。ドリップでコーヒーを淹れたり、エスプレッソマシーンでカフェラテを作ったり、ビールよりもコーヒーが飲まれるという、ハイネケンが当たり前のフジロック、サッポロ黒ラベルがおいしいライジングサンなどのロックフェスに慣れている身の上(私)には、非常に、非常に不思議なイベントだった。

 出演アーティスト陣も、オーガニックと言えばいいのか。地下室+アルコールよりも、木漏れ日+コーヒーが合いそうなラインナップ。原田知世、アン・サリー、Chocolat & Akito、コトリンゴ・・・というメンバーで、正午から夕方まで、のんびり/まったりした音を聞かせてくれた。

cafe_fes2012

原田知世はまぶしかった

 会場は、右手に羊蹄山がドーンと広がる、ヒルトンのゴルフ練習コースと思われる草地。好天に恵まれ、午後2時ごろまで、座ってるだけで汗がじわーっと出てくる
感じ。でも、風が吹けばすごく涼しい。

 そんな高原のステージで、原田知世はラストに「時をかける少女」を披露。ギターとボーカルのデュオ編成ながら、ちょっとサウダージな雰囲気のボサノバアレンジで聞かせてくれて、感激した。「過去も未来も 星座も越える・・・」。ユーミンが書いたこの詞自体が良いのに、アレンジが変わるともっと良くなるのか。文字通り、感涙もんだった。背筋をピンと伸ばして、座りながら歌う原田知世。すごく、すごくまぶしかった。

イッツ、キュート!Chocolat & Akito

 続くChocolat & Akito。おそらく5月の帯広ライブで、ばんえい競馬を見て、さらに札幌で観光幌馬車の銀太君にも会えたことを、曲間のMCでうれしそうに話していたのがほほえましかった。しゃべるとドラえもんみたいなのに、歌うとぜんぜん別人。そんなChocolatのギャップと、夫のAkito(グレート3)の2人は、不思議なバランス感を保ちながら、ニセコの森で温かい音をつむいだ。打ち込み入りの曲で出だしをトチったり、パーカッションを叩くタイミングが、かなりぎりぎりに際どかったりするChocolat。彼女をサポートするような、Akitoの心の温かさも見えてくるような、キュートなステージだった。

うれし涙、わらい涙 コトリンゴは良いなぁ

 そしてこのフェス最大の収穫がコトリンゴ。フリッパーズギターの「真夜中のマシンガン」、オリジナルの「みっつの涙」などなど、カバーもオリジナルも自在に歌い、時にジャズっぽいフレーズをちらつかせながら歌う雰囲気から「わ!矢野顕子みたい!」と直感。肩の力を抜き、無理に力まずに歌うような、かすれるような歌唱は、大貫妙子をほうふつとさせる。と書くと、ちょっと言いすぎかな。

 芯に熱いものが宿ってそうなコトリンゴのピアノのテクニックと、独特の透き通るハスキーボイス。その性能にはうすうす感づいていたけれど、ドラム+ピアノという極小編成で、ほぼネイキッド状態であっても、わぁ。グッと聴かせてくれる。2011年のワールドハピネスで彼女のパフォーマンスを初めて見たときも「いいなぁ」と思ったけど、そのときよりも少しスリリングで、なのに解放的な雰囲気で、超ステキだった。

おいしいコーヒー、ベーグル

 と、こんな具合に出演陣もナカナカだったが、フード/ドリンクの出店ブースのクオリティも高かった。地元ニセコのカフェ「高野珈琲店」のアイスカフェラテは、これまで飲んだどのカフェラテよりも美味。コーヒーのほどよい苦味と後味、そして存在感のある牛乳のコク。コーヒーと牛乳のシンプルなデュオが、良い味出してた。

 「高野珈琲店」はベーグルも販売していて、ベーグルなんか絶対買って食べない!と食わず嫌いだった私の味覚を、大いに是正してくれるおいしさだった。硬すぎず、やわすぎず。ほどよい弾力の、ほどよい食感。

 こんな具合に、コーヒーとベーグルが似合うフェスは、今回が道内初開催。お客はそんなにバカスカ入っている印象ではなかったですが、ちびっ子からおばあちゃんまで、親子3世代で楽しめる雰囲気の会場は、真剣に音楽を楽しむ/のんびりコーヒーを飲むといった具合に、来場客が自由にフェスを楽しめる感じだった。

 そんな会場の空気と、羊蹄山の良い山を眺めていたら、あっという間に5時間のステージが終わっちゃった。

 再びこんなステキなイベントが、北海道で開かれたらいいなぁと願っている。