おんがく、あれこれ
電気グルーヴ
人間と動物

  1. The Big Shirts
  2. Missing Beatz(Album Version)
  3. Shameful(Album Version)
  4. P
  5. Slow Motion
  6. Prof, Radio
  7. Upside Down(Album Version)
  8. Oyster(私は牡蠣になりたい)
  9. 電気グルーヴのSteppin’ Stone
  • Ki/oon 2013/02/27
  • KSCL 2200-1

 ドイツが誇る“テクノ界のローリング・ストーンズ”こと、Kraftwerkが来日し“ほぼ1週間連続ライブ”を敢行する今年の電気グルーヴは、何かが違うようだ…。と、新アルバム「人間と動物」を引っさげた全国ツアー「ツアーパンダ2013」の札幌ライブを観て、実感した。

 観客たった3人のZepp札幌のライブ会場で、中年のおっさん2人は「Flashback Disco」「あすなろサンシャイン」「Shangri-ra」「N.O」などの名曲を、デバイス・ガールズの驚異的にハッピーな電装(ライティングと映像)をバックに熱唱した。

 石野卓球は悪ふざけする文系中学生のような、アホみたいなMCでしゃべりまくり(ライブの4分の1はしゃべってたか)、ピエール瀧はライブ時、「この人にしかできない、この人のタイミングでしかできない」シュールなパフォーマンス(小学校の学芸会で出てきそうなヤリを掲げる、など)をぶちまけた。これほど腹筋がぶっ壊れそうなほど笑ったライブは、初めてかもしれない。

 ちっともカッコつけてない、バカ丸出しのバカライブ。

 なんだけど、ゼップ札幌で鳴っていた電グルのサウンドは、間違いなく世界標準のズンドコ/ディスコ。音作りが丁寧なサウンドシステムもあってか、爆音でズンズンどこどこ鳴っていても、耳が不快に感じない。「もっと踊りたい!」「もっと爆音にしてくれ!」と“ダンシング餓鬼道”に無理やり引きずり込まされたような、悪夢のような最高のライブだった。「このままずっと踊ってたい。このライブが終わらなければいいのに」・・・と思ったもんだ。

 そんなライブを体験したせいもあってニューアルバム「人間と動物」は、もう冷静に判断できない/冷静に聴けない1枚になってしまった。

もはや冷静に聴けない1枚

 札幌のライブ冒頭、点滴付きの台車に座った卓球と、その台車を押してステージを練り歩くピエール瀧。2人の手にはマイク。気づけば「The Big Shirts」を熱唱している。口元だけ見れば歌謡ショー。全体を見れば、ジョージ・クリントンあたりがやりそうな、バカバカしさ丸出し、モロ出しの1曲目。札幌のライブもニューアルバムも、このアルバムから始まったんだ。始まるんだ。

 個人的には「The Big Shirts」のファンキーなギターのカッティングと、ゴリッゴリのベースラインがたまりません。歌詞は相変わらず意味不明。曲の真ん中あたりで鳴る安っぽいシンセ音(1980年代後半あたりに鳴りがちな感じの音)に、潔さも感じる。新しいんだけど古い。次に「Missing Beatz」~「Shameful」になだれ込む。その流れ方もカッコいい。

 オールドスクールのパーツで21世紀に悪ふざけ「P」、サマー・イズ・オーバー感が漂うメロディーがたまらん「Prof, Radio」と「Upside Down」、Kraftwerk「Man Machine」あたりの重厚なシンセ音をパクった今に伝える「Oyster」。そんなおっさん文化祭のラストは、まさかのモンキーズカバー!原曲を20代に聴かしても「モンキーズって誰?」って言われそうな21世紀に、あえてこの選曲・・・。

 渋い。
 
 本当に渋い1枚だ。

 ただ、CD版はドラム系の音(特にスネアの鳴りと、シンバルの響き)が控え目。

 3月にリリースされたアナログ盤のほうが、逆にガッツり鳴っているように感じる。個人的にはライブで感じたあの“ズンドコ餓鬼道感”は、アナログ盤で炸裂しているんじゃないか。

 単なる錯覚かもしれないが。幻聴かもしれないが。

 いずれにしても、ライブを体験している/いないで、受け止め方が大幅に変わりそうだ。もしライブを見ずに聴いたとしたら、「ふーん」って感じで、あっさりと耳を通過してしまいかねない。それほどの渋さをたたえている。