おんがく、あれこれ

 2012年7月6日(金曜日)。サントリーホール(東京)で行われた「山下洋輔(Pf) スペシャル・ビッグバンド・コンサート2012」に行ってきた。

 大感動、大興奮の嵐だった。

■山下洋輔スペシャル・ビッグバンド (Yosuke Yamashita Special Big Band)
山下洋輔 Yosuke Yamashita (piano)
金子 健 Ken Kaneko (bass)
高橋信之介 Shinnosuke Takahashi (drums)

[Trumpet Section]
エリック 宮城 Eric Miyashiro (tp)
佐々木 史郎 Shiro Sasaki (tp)
木幡 光邦 Mitsukuni Kohata (tp)
高瀬 龍一 Ryuichi Takase (tp)

[Trombone Section]
松本 治 Osamu Matsumoto (tb)
中川 英二郎 Eijiro Nakagawa (tb)
片岡 雄三 Yuzo Kataoka (tb)
山城 純子 Junko Yamashiro (B.tb)

[Saxophone Section]
澤田 一範 Kazunori Sawada (as)
米田 裕也 Yuya Yoneda (as)
川嶋 哲郎 Tetsuro Kawashima (ts)
竹野 昌邦 Masakuni Takeno (ts)
小池 修 Osamu Koike (bs)
※[池田 篤さん]が病気療養のため[澤田一範さん]に変更となりました。

 ・・・と、こんなメチャクチャな布陣で、クラシック曲の「ボレロ 」(M.ラベル / Big Band Version)、同じく「組曲 展覧会の絵」(M. ムソルグスキー / Big Band Version)、デューク・エリントンのナンバーなど、想像通りメッチャクチャな演奏をドバーっと聴かせてくれた。

■進化の果てはメカゴジラな「ボレロ」

 「ボレロ」は森の奥深くにいそうな可憐な生き物が、怪人ジャズマンどもの音楽と音響で改造されてまくって、最後はメカゴジラみたいに音楽によるカタストロフィをもたらすような、ありえない進化を頼んでもいないのに聴かせる。そんなプレーだった。

 これだけでおなかイッパイなのに、休憩をはさみ、次は「展覧会の絵」。あの冒頭のメロディーがテーマとなって、フリージャズ丸出しのきわめてモーダルなアレンジあり、ドシャメシャ・ジャズあり、豪雨のようなスイングジャズと、「ヨースケさんならそう来るよねぇ」と、痺れっぱなしの驚異的なプレーてんこもり。一歩間違えれば拷問。でもぜんぜん楽しい!1曲(1枚の絵)ごとに拍手が沸いたのも、ほほえましかった。

■「クレイ」にやられた!

 NHK交響楽団の主席オーボエ奏者、茂木大輔とヨースケさんとの「タイマン」勝負で披露した名曲「クレイ」もすごかった。鮮やかな筆さばきで驚異的な水墨画をシュシュっと描いて、見る者のハートをぐわっと鷲掴みするような、そんなミラクル演奏家どうしの一本勝負みたいな演奏。

 ヨースケさんの背中がはっきりと見える席だったこともあり、彼のシャア専用ザクのようにすばやく、するどいプレイスタイルを拝める瞬間でもあった。ああ、たまりまへん。鍵盤の真ん中あたり→高音部→ドシャっとつぶれるような低音。きらきら光るモザイクタイルをこしらえたかと思いきや、不意を突く大きな衝撃とともにタイルが一気に飛び散り、泥沼の中に消えていくような急転直下、ジェットコースターのようなプレイスタイル。そんなヨースケさんのスタイルは、もう国宝級と言ってもいいのでは。

■高橋信之介という凄腕

 まるでジェフ・ベックのように「次にどういう音が来るか」と、音の予想ができない/させない、ヨースケさんのドシャメシャ・ピアノに喧嘩を挑みつつ、時に引き立てつつ、さりげなく「自分の味」も交えて聴かせたのが、30代のドラマー・高橋信之介だった。

 大ホール会場なのに、ドラムセットの音量を叩き方で的確にコントロールし、さらにヨースケさんのドシャメシャ・サウンドに食って掛かるような、鮮度の鋭いシンバルワークを見せ付けたのには恐れ入りました。ものすごいスピードでドラムを叩いているのに、無駄がない。過剰じゃない。けど、恐ろしいくらい手数が多い。

 陳腐な言い方だけど、何かを表現するための想像力と、それを具現化するための技術。その両者が、良いエンジンと良い駆動系(ギア)みたいな関係で、奇跡的なバランスを保ちながら、ドラムを叩くまくっていた。そんなスーパーカーみたいなビートに乗って、ヨースケさんは、あまりにも自由なフレーズを引き出しまくる。

 強力なF1チームみたいな演奏だった・・・。