おんがく、あれこれ

リンク・レイ「アーリーレコーディングス」(Link Wray Early Recordings)

 2009年9月のシルバーウィーク。遠藤賢司のライブ2本と年に1度のロックンロールイベント「ロッケンローサミット」を見に東京へ遊びに行ったとき、新宿のディスクユニオンで「なんじゃこれ!」と釘付けになったのが、Link Wrayのこのアルバム。ペラペラな紙ジャケで、黄色いバックに赤い文字でLink Wrayとあるやたら目立つジャケット。Link御大はトレードマークとも言えるものすごいボディのギターを、真剣な表情でかまえている。ここで笑顔を見せていないのがイイ。すかさず帳場に持って行きました。

Link Wray / Early Recordings
1. Batman Theme
2. Ace Of Spades
3. Cross Ties
4. Jack The Ripper
5. Hidden Charms
6. I’m Branded
7. The Shadow Knows
8. Fat Back
9. Run Chicken Run
10. Black Widow
11. Scatter
12. Turnpike Usa
13. Mr Guitar
14. Rumble

 サーフ/ホッド・ロッド系の定型的ロックンロールとはベクトルを異にするような、独特のザラついたフレーズでロールしまくるLink Wrayのギターサウンドがテンコ盛りのアルバムは、まさに「Early(早すぎた)」ガレージロックの総本山みたいなものか。「そんな音楽ばっかり聴いてたら頭が悪くなるからやめなさい!」とお母さんに怒られながら、でも「俺もバンドやりたい!リンク・レイみたいな、かっこいいギターを弾きたい!」というアメリカの男子のハートをわしづかみにするキラーチューンは、ともすれば録音から60年近くたった21世紀の今だって、十分にキラー過ぎる。

 名曲「Batman Theme」はもとより、ダークなギターリフがたまらない「Ace Of Spades」「Jack The Ripper」「Fat Back」の3曲は、題名を見ないと同じ曲だと思っちゃうくらいの金太郎アメ状態。でもそれでいい!これがいい!。「Black Widow」ははYardbirdsがカバーしてそうな気がする。そして「Hidden Charms」はもう完全に、適正なガレージナンバー。「ガレージ」を巡る解釈はさまざまあれど、ノイジー、とっぽい感じ、ザラザラ、ギラギラ、ラフ、荒削り、かっこいリフ、という要素をガレージとするならば、その条件を全部満たしている怪曲。安直なリズムに、かっこいギターがギャンギャン鳴りまくるんだぜ。

 そしてシメの「Rumble」。もしこの曲をLink Wrayが作っていなかったら、ギターウルフのライブのエンディングはどうなっていたのだろうか、そしてギラギラ系のロックンロールの歴史は、今よりもうちょっとおとなしくなっていたのではないか、なんて妄想がどんどんわいてくる。

 とにかくかっこいいLink Wray。やっぱり1950年代~60年代のアメリカのロックンロールは、永遠にかっこいいと思いたくなる。そんな空気感が、ギュッと真空パックされている1枚。1家に1枚、Link Wray!

 昨年末、関西を旅したとき、大阪は心斎橋のタイムボムに初めて寄ってみた。うわさの通り、1960年代のいかしたブツがたくさんあった。キンクス、60ズUSガレージ、ニートなビーツがぎょうさん。てんこもり。そんな店で最も気になったのは、ヴェルベット・アンダーグラウンドの7インチボックスセット。

 「いつのまにこんなハコが出てたんですか」。2009年はビートルズ箱、クラフトワーク箱、さらにワイルドワンズ箱を格安でゲットするなど、ハコの物欲はすさまじい。まさにハードコア。いや、そんなマイナス273度な絶対零度のギャグはともかく、ヴェルベッツのハコを心斎橋で見かけたとき、俺の心はガクガクと揺れた。だって、死ぬほど好きな「White Light,White Heat」の7インチ盤が、2枚も収められているんだぜ。

VELVET UNDERGROUND Singles 1966-69

THE VLVET UNDERGROUND SINGLES 1966-69 (sundazed 2009)

Single One – ALL TOMORROW’S PARTIES / I’LL BE YOUR MIRROR(Verve VK-10427)
Single Two – SUNDAY MORNING / FEMME FATALE (Verve VK-10466)
Single Three – WHITE LIGHT,WHITE HEAT / HERE SHE COMES NOW (Verve VK-10560)
Single Four – WHITE LIGHT,WHITE HEAT / I HEARD CALL MY NAME (Cancelled Single)
Single Five – TEMPTATION INSIDE YOUR HEART / STEPHANIE SAYS (Cancelled Single)
Single Six – WHAT GOES ON / JESUS (MGM K-14057)
Single Seven – VU RADIO SPOT (MGM VU-1)

VELVET UNDERGROUND Singles 1966-69

 と書いてみても、CDの音源でしか慣れ親しんでない聴覚には、どんな音が収められているのかさっぱり想像がつかない。でも、死ぬほど好きな(ってしつこいな!)「White Light,White Heat」が、7インチで聴けるのだ。うぅぅ~~~ん。ほわいらい♪というわけで、迷わずレジに向かった。ちなみにタイムボムのお値段は4980円。かんたんな日本語解説(A4用紙1枚)もついてきた。

 7インチハコを慎重に北海道へ輸送し、帰宅して針を落としてみた。もちろん、最初に聴いたのは「White Light,White Heat」。1曲のために記録メディア(円盤)のすべてを使う7インチ盤は、音楽にとって最も幸せなフォーマットだなと思う。そんなぜいたくが、ヴェルベッツで味わえるのだ!これを幸せと言わずに、なんと言おうか!

 ・・・という前置きはともかく、Single Threeの「WHITE LIGHT,WHITE HEAT / HERE SHE COMES NOW」。これがMONOの音なんです。いままでステレオ音源アルバム「WHITE LIGHT / WHITE HEAT」ばっかり聴いていた耳には、より音が悪くなり、音のくぐもり方が強くなったこの7インチ盤のほうが「ヴェルベッツらしいかも」と感じている。B面の「HERE SHE COMES NOW」もCDのほうが明らかに音質はくっきりしているけれど、やっぱりヴェルベッツらしいな~と、同様の感覚を抱く。

 そしていちばん気になっていたSingle Four。「WHITE LIGHT / WHITE HEAT」こそSingle Threeと同じだけど、B面の「I HEARD CALL MY NAME」がやばすぎ。アルバムではまぶたの裏にギラギラ光る非日常のLSD体験(俺はやったとこないけれど)を音像化したような「SISTER RAY」のオーバチュアとも言えるこの曲は、モータッカーがドコドコとドラム叩きまくる快適なグルーヴ感に、フィードバックノイズが銀河のように渦巻き、銀色と黒色の2色だけで発狂するロックンロール。その銀河系ロックンロールが、7インチの溝にがっしりと、しかもMONO音源で掘り込まれているのだ。この曲だけでも、ボックスを買う価値はあると思う。

 ニコのボーカル&ウォホールとジョン・ケイル脱退後のヴェルベッツには食指があまり動かない自分にとって、すなわちアルバム「WHITE LIGHT / WHITE HEAT」が死ぬほど好きな自分だからこそ、この3枚目と4枚目のシングルは重要なアイテムになりつつある。やっぱりルー・リードがベロベロに歌いまくって、ジョン・ケイルがギラギラ、ザラザラしたフレーズを多用するノイズ/サイケロックンロールバンドとしてのヴェルベッツは最高だ。

 このボックスセットのおかげで、今度はMONO盤のアルバム「WHITE LIGHT / WHITE HEAT」を探してしまいそう。