おんがく、あれこれ

 2009年のフジロック。北海道から寝台特急「北斗星」に揺られ、大宮で新幹線を乗り継いで初参戦した。テント、寝袋、コンロ、酒。10キロくらいのあれこれをザックに突っ込んで、苗場の山でテントを張った。

 雨に打たれ、風に吹かれ、宮沢賢治のような世界で繰り広げられた夏祭り。生まれて初めてナマで見るスティーブ・ヒレッジのGONG & SYSTEM7でのギターアクションに大感動し、フェラ・クティの実子(だったけ)のセウン・クティ率いるエジプト80の強靭なグルーヴ感のとりこになったり、ポリシックスを好きになりそうになったり(このときのステージはすごくよかった)、頭脳警察の”意外”なハマリ具合にうれしくなったり。

 そんな苗場の山の2日目、前日の雨が上がってドバーっと晴れ渡った。北海道に住んでいるとなかなか体験できない日本の夏って感じ。テントの外に出てiPodでガンガンに音楽を聴いて日記を書いてたら、広島からきたサンフレッチェ広島を応援している男性となんとなくハナシをした。

 サンフレッチェ氏は首からライジングサンのパスケースをぶら下げてた。紫色のサンフレッチェユニフォームも着ていた。

 「俺、北海道から来たんですよ」

 なんて話し始めると、パスケースをおもむろに取り出して、サンフレッチェ氏はニコリとして

 「これ、最初のライジングサンに行ったときのパスケースなんですよ」と話した。

 最初のライジングサンと言うことは、1999年。ちょうど10年前。その当時俺は高校生。今の音楽なんてツマンネー、なんてうそぶいて、ブルーノートとマイルス・デイヴィスを妄信するような、排他主義的アホリスナーだった。せいぜい、ゆらゆら帝国がかっこいいなーと思ってるくらいの、北海道田舎在住の盆暗野郎だった。

 「もう10年なんですか。なんか、ちょっと前みたいな気がしてたんですけど」

 そんな具合に苗場の山で10年前を振り返る。

 「あのときは、ナンバーガールとスーパーカーも出たんだっけな」

 サンフレッチェ氏がおもむろに話し始めた。

 俺より2歳年上の彼にとってナンバーガールは別格のバンドだったそう。その当時の俺は上のようなアホ音楽生活を送っていたために、ナンバーガールのスゴさに気づかない盆暗な高校3年生だった。そんなアホ高校生がアホ大学生になって社会人になりかけるとき、ナンバーガールの「SAPPUKEI」を聴きなおして「このバンド、スゲー!」と感動したのだった。

 でも、そのときはとっくにナンバーガールは解散し、向井秀徳はZAZEN BOYSでギターを弾いていた。

 あのときライジングサンに行ってたら、ギターウルフと一緒にナンバーガールも見れたんだ。逃したサカナはデカイ。そのデカさを、苗場の山で気づいた。

 そして2010年。

 今度はもうひとつ、逃したサカナのデカさを思い知らされた。それは青森出身のバンド、スーパーカー。「Futurama」を改めて聴いて、かつてのナンバガールと同様の後悔の念を抱いている。なんで、あの当時ナマのステージを見なかったんだ!なんであの時、このバンドの音をちゃんと聴いてなかったんだ!と。

 2010年1月、「Futurama」にずっぽしはまっている。

 ROVOを聴く耳にはあまりにもストライクゾーンなイイ曲「White Surf style 5.」でトランシーな世界が広がったかと思えば、日曜日の午前中の空気感を音像化したようなハッピーな曲が万華鏡をのぞくような感じで、あるいはやや荒削りなコーネリアスみたいな感じで、次々とスピーカーから飛び出してくる。

 エレクトロニカ化した雪国出身のナンバーガール。「Futurama」のスーパーカーを乱暴に表現してしまえば、そんな具合になろうか。北海道出身者の自分としては、雪と冬の感覚をロックのイディオムでうまく結晶化したバンドだなと、このアルバムからそんな感慨を抱く。

 でもスーパーカーはもういない。ILLじゃ、やっぱり違う。キラキラ感が違う。ナンバーガールとスーパーカーを聴いて、10代から20代を駆け抜けたかった。

 そんな後悔を抱くたびに、苗場の山で出会ったサンフレッチェ氏がうらやましく思えるんだ。

 なんかこう、シャカイジンとして生きているということは仕事=金、タイム=マネーなカラクリで生きているわけでして、逆に言えば仕事しなければ生きていけない/カネがない=レコードが買えないwithライブにも行けない・・・

 わけなんでありますな。

 そんな今日この頃、レコードを買う、あるいはライブに行くための資金を集める、ために俺は働いているわけで、気がつけばちっと更新できずに1月が過ぎようとしている。

 光陰矢のごとし。

 先人は、うまい形容詞を作ったもんだ。ビューチフォー。

 そんな今日この頃。でもCDはバシバシ買ってます。

 最近の高額商品ではヴェルベット・アンダーグラウンドの通称「黒バナナ」こと、1stアルバムのアセテート音源、2ndアルバムのMONO音源などが収録されている音源を買ってしまいました。MONOで聴く「SISTER RAY」はヤバイ。ルー・リードとジョン・ケイルの才覚が、掛け値なしの真っ向勝負を挑んだドキュメンタリー要素が、心なしか強化されている気がします。んが、正規音源のステレオ盤を再生すると「こっちもいいなー」。いったいどっちがいいんだ!わけがわらなくなるモノステの境界線。その辺縁を行ったりきたりするヴェルベッツ。かっこいいぜ。

 続いて布谷文夫の「ロストブルースデイズ」。なんとなく「2人のブルース」のいろんなオトを聴きたくなったので、布谷文夫~DEWの音源で格安で捕獲できるものをできるだけ買いあさっている1月です。それにしても「立ち眩みライブ」が高価で取引されているなんて、ちょっと信じられない。どうでもいいけど「2人のブルース」のベストアクトは、今のところ「幻野ライブ」だと思っております。

 その幻野ライブをひさびさに聴いて、郡山ワンステップフェスティバルのCDが気になり始めました。その昔、某雑誌でディスクリビューを書かせてもらっていたとき、ついつい買い逃してしまった昭和日本ロック史の準重要アイテム的ブツだと、数年目にして気づいたのだった。乗り遅れまくれの俺。既に購入不能状態ながら、奇跡的に某オークションで偶然見つけて即BUY。これで四人囃子や外道を、ちゃんと聴けるぞ。わーい。

 このほか、CDがあるはずなのに自宅でディスクが遭難している鉄腕アトムのトリビュート的アルバム「Electric-Brain Featuring Astroboy」も中古安価でゲット。ジャンルはいきなりテクノ~エレクトロニカ路線にシフトしますが、これに収録されてるROVOの「ASTROVO」が泣けます。

 原子力で動くマシーン=アトムというロボットに、喜怒哀楽の微妙な感性を与えるような、そんな感性を先天的に抱いているような。ツインドラムの駆動力とベースのクールなグルーヴ感(この曲で「ROVOのベースはかっこいい!」と気づきました)、そして勝井祐二の天衣無縫なエレキバイオリンの音色と残響。天馬博士の理学を超えたピースフル=原子力の純平和利用、みたいなストレンジでスウィートな優しさを感じさせる音塊が何年かぶりにスピーカーから飛び出して、俺のハートもピースフル。ところで気持ちを落ち着かせて音を聴いてみると、奇才・山本精一のギターがぜんぜん聴こえないのが気になった。

 手塚るみ子さんって、侮れない存在だと思います。父の手塚治虫の作品と、エレクトリックミュージックとを結びつけた稀有な存在。この「Electric-Brain Featuring Astroboy」だけでなく、スティーブ・ヒレッジ率いるSYSTEM 7で「PHONIEX」(あるいはHINOTORI)のコラボを実現させて、しかも去年のFUJI ROCK FESTIVALで「HINOTORI」をナマで聴けたんだもん。日本人でよかったーと思う今日この頃です。

 この駄文は会社の飲み会の帰りにドバーっと書きました。