おんがく、あれこれ

 想像以上の豪雨に驚いた2009年以来、3年ぶり2度目のフジロックへ北海道から参戦した。今年は自分なりに「ぜんぜん知らねぇけどスゲェ良い!」と、欣喜雀躍、狂喜のバンドがたくさん出て大変におもしろかった。開催期間中の3日間、ほとんど雨が降らないというコンディションにも恵まれ、音と酒に痺れっぱなしだった。

■7月26日(木曜)

新千歳→羽田(飛行機)
東京→越後湯沢(新幹線)
越後湯沢→会場(シャトルバス)
23時50分ごろ会場に到着

 会場に到着して、すかさずリストバンド交換に向かうも、超長蛇の列!真夜中のディズニーランドのアトラクション待ちかよ。6重、7重にぐるぐる行列がトグロを巻く午前0時。

 いちゃつくカップル、音楽プレーヤーでなんか聴いてるやつ、デビルマンのコスプレをしたやつ。みんな思い思いに時間をつぶしてるが、少しずつしか前に進まない。仮死状態の蛇みたいな行列。でもここで諦めちゃいかん。フジロックは待つことから始まるのだ。そう、3年前だって、並んだじゃないか。テントなどが入った重さ13キロの装備をずるずる動かして、やっと交換所が見えた!

 したら・・・

 交換に応じる係員が、2人しかおらん!

 なんだこれ!

 なんでだ!

 「これ、おかしくないですか?」

 言い寄る入場客もいたが、これじゃ入場客をほとんどさばけないも同然。けっきょく1時間30分並んでようやっと、キャンプサイトと3日間の通し券をリストバンドに交換。その後、真夜中のテント張りに四苦八苦。午前3時ごろに就寝・・・。はぁ。

■7月27日(金曜)

・MIMI MAURA feat. 石川道久セッション(オレンジコート)
・DJANGO DJANGO(ホワイトステージ)
・THIRD COAST KINGS(ホワイトステージ)
・THA BLUE HERB(ホワイトステージ)
・ERNEST RANGLIN(フィールド・オブ・ヘブン=中盤を少し)
・MORITZ VON OSWALD TRIO(オレンジコート=昼寝)
・LOS LONELY BOYS(フィールド・オブ・ヘブン)
・HIROMI(上原ひろみ) THE TRIO PROJECT(オレンジコート)
・TOOTS AND THE MAYTALS(フィールド・オブ・ヘブン=通りすがって聴いた?)
・ホウリベ ルウ(ジプシー・アヴァロン=中盤から)
・オールナイトフジ(オレンジコート)
 :DJ AKi & YUUKi MC
 :DEXPISTOLS
 :DJ EMMA

 そんな前夜の苦闘を忘れたかのように、苗場の初日は、早朝から良い天気。午前6時、7時・・・時間がたつにつれ、テント内の温度が上がっていく。だんだん蒸し暑くなってくる。こりゃ、目覚ましがなくても午前7時ごろに、間違いなくおきれるぞ。
 コーヒーを淹れ、水を汲み、午前10時すぎに会場へ。

 入り口の雰囲気など、3年前とほとんど変わってない。相変わらずの荷物チェック&リストバンド確認もあるし。
 難なく会場に入れた。入って左手に何かの組織のテント、もう少し進むとトイレ。だんだん3年前の勘がよみがえってくる。3年前におぼえた会場図の記憶。頭の奥深くで冷凍されてカチンカチンになってるやつが、少しずつ解凍されていくような気分。「やっぱグリーンステージはでかいなぁ」「やっぱりグリーン奥にアーティストグッズ販売があるのか」といった具合に。

 と、初日は「ものすごく見たい」という出演者がそれほど多くなかったが、最初のMIMI MAURA feat. 石川道久セッションから、「やっぱフジはいいなぁ」と思いたくなるような、見ず知らずの音楽との良い出会いがあった。

最初の風は、南国の風/MIMI MAURA feat. 石川道久セッション

 なんだこの風通しの良い音は!と、最初にこのバンドの音を聴いた瞬間、すんごく感動した。網タイツの熟女ボーカル(足が太い)が、ちょっと馬力のある南米っぽい歌声を張り上げる。気の強そうな、芯の太そうな南国のメロディ。エレキヴァイオリンが浮遊感をかもし、ギターのカッティングが暑い国に吹く、心地よいそよ風みたいな、美メロを奏でる。

 ブラジルでもないジャマイカでもない。ボサノヴァでもないレゲエでもない。なんだろう。この感じは。カリビアンなんだけど、スチールドラムがあるわけでもない。そうか、スチールドラムなしでも、カリビアンな感じってかもし出せるのか!

 などと一人合点し、ワクワクモードへのギアがしっかり入った気にさせられた。

 3人編成のDJANGO DJANGOは、1つのドラムセットを2人で叩くというパフォーマンスがあり、その出鼻でスネア(だったと思う)が勢いあまって倒れるというアクシデント。なんだかキュートだった。

 THIRD COAST KINGSはまったく知らないバンドだったけど、ジェームス・ブラウンのバンドがそのままフジロックにやってきたような、極上のファンクチューンを連発。横山剣みたいな暑苦しいボーカル(これが絶品)の左側にギター&ベース、右手にホーンセクションという布陣。

 メカニカル極まりないリフを積み重ねるギターに唖然としたり、ゴージャスなホーンセクションにうっとりしたり。かと思えば、JBを崇拝しまくってそうな熱い(暑苦しい)ボーカルもたまんねぇ。ベースも良い味出してた。アーシーなグルーヴ感。これは西海岸な感じだろうか。

 自分なりに、フジロックへのボルテージが上がったパフォーマンスだった。

THA BLUE HERBあるいはホワイトステージの歓喜

 そしてTHA BLUE HERB。この日のベストアクトは、間違いなく彼らだったと断言したい。ILL-BOSSTINO、DJ DYEの2人だけのステージ上は、怖いくらい「スカスカ」だった。客がスカスカだったわけではない。ステージ上がスカスカだったのだ。

 CD-Jっぽいセットなどを千手観音みたいに操作しまくるDJ DYEと、マイクを手にするILL-BOSSTINOの2人。にもかかわらず、メロウでタフなビートに乗せて、ILL-BOSSTINOは時と場合を取捨選別しながら、絶妙なライムをつむぎまくった。

 3・11以前/以後の現状、日本の政治家たちへ浴びせる痛烈なメッセージ、学校じゃ教えてくれない勇気の使い方。先手必勝、タッチアンドゴー。ピアノのメロディの破片に合わせて、絶妙な言葉と言葉を浴びせまくる。言葉を吐くたびに、会場が熱くなって行く。BLUE HERBのよさは、短期的な快楽におぼれたり、弱いものをいじめるような、くだらねぇヒップホップとは太陽と冥王星くらい離れている点だ。とにかく前向き。クソ寒い北海道の冬を、なんとかして乗り越えてきた男の歌だ。彼らが「乗り越えてきた」方法を、わかりやすく教えてくれる。そんなステージだったように思う。

 ホワイトステージ上部の大画面ビジョンに映るILL-BOSSTINOのキャップには、北海道の地形の刺繍。札幌からのし上がった男が、今、こうして、ホワイトステージで熱いパフォーマンスを見せている。そして会場が沸いている。その「現場」で私は、北海道で生まれ育ち、今も暮らす私は、号泣した。最高だった。

フィールド・オブ・ヘブンの魔力/LOS LONELY BOYS

 THA BLUE HERBがベストアクトなら、最大の収穫はLOS LONELY BOYSだった。見てくれはマッチョになったレニー・クラヴィッツ風。でも奏でる音はサンタナとジミヘンの良いところをつなぎ合わせたような、ミラクル絶品のバカテクサウンドのギターが、花火大会のように大炸裂。牛丼屋で並盛を頼んだら、ギガ盛の牛丼が出てきた。みたいな、手数が多いけど耳においしいエレクトリック・ブルースのフレーズテンコモリ!最前列でワーキャー言いながら、声援を送りまくった。
 彼らはアメリカのバンドだそうだが、歌はスペイン語(ポルトガル語?)っぽい。いや、もしかしたらスパニッシュなまりの英語なのかもしれない。そんな絶品ギターに、メタルっぽい雰囲気でゴリゴリなリズムをつむいだドラム&ベースが、おいしく溶け合う。3ピースなのに、パンチと破壊力のある純然たるロックを奏でてた。カッコよかったなぁ。

 最前列でまったく知らない人とワーキャー言いながら聴いてたら、終演後、そのまったく知らない人が感極まって「この会場の砂を持って帰りたい!」と興奮気味に語ってた。その気持ち、すんごいよくわかる。だって私もぶっ飛びまくる電気式ブルースにしびれたから。

 そんなイカしたボーイズに痺れたこともあってか、オレンジコートの上原ひろみ。正直に言うと物足りなかった。たしかにパフォーマンスは真剣だったし、しゃべったらカワイかった。けど、先日の山下洋輔のピアノに痺れまくったジャズ聴覚には「もっとめちゃくちゃに弾いて、俺をめちゃくちゃにしてくれ!」という、欲求不満状態だった。

 単調なと言えばそれまでだけど、若干ワンパターン気味のリフが多く、もっとこう、ドシャ!メシャ!グシャ!と盛大にクラッシュして、そこから何事もなかったかのようにリスタートする。そんな強引さと根性があったら、きっともっと、スゲェ音楽をつむげるだろうになぁ。なんて思いながら観ていた。

ドラムンベースの貴公子/DJ AKi & YUUKi MC

 この日のラストはオールナイトフジ。3年前に参加したときは、まさかの豪雨で中止となったため、今回が初参加。そんな会場のオレンジコートのステージには、2台のDJブースが。その前面に電飾付のリングを模したロープが張られている。なるほど、DJ同士の対決ってわけか。

 そのラウンド1。スタートを飾ったのが、日本が誇るドラムンベースの貴公子、DJ Aki。彼がむかし、Nikeのランニング向けDJミックスを配信したとき、何年ぶりかにドラムンベースの魅力を再発見したものだが、相変わらず情け容赦ない高速ビートに、キラキラ光るようなメロディーを組み合わせたような、そんな両極端が一体化したダンスミュージックがいっぱい。高速ビートに合わせ、最前列で踊りまくる。DJ Akiも踊りまくりながら、曲をつなぐ。踊るたびに、彼のドレッドヘアがブンブン揺れるのがおもしろかった。DJ Akiのプレイに合わせてMCが吐く言葉も、決して饒舌な感じではないが、ひたむきな感じで好感が持てた。

 プロディジーの名曲「VooDoo Peole」がドラムンベースかされたmix(ペンデュラムか)も流れ、ワーキャー言いながら踊りまくったら、あっけなくDEXPISTOLSにバトンタッチ。もう少し聴きたかった。

 DEXPISTOLSもプロディージーの「Smack My Bitch Up」を流した。プロディジーで中学時代を過ごした俺には懐かしすぎたが、やっぱりドラムンベース需要は少ないのか。会場はDEXPISTOLSのほうが盛り上がった感じだった。でも俺はDEXPISTOLSよりも、Dj Akiのほうがカッコイイと思った。いや、そんなことどうでもいいや。

 続くDJ EMMAあたりから、あんまりグッとこないハウスっぽいビートが増えてきて、正直飽きてきた。ほんとはDJ KRUSHのパフォーマンスを見たかったけど、途中で諦めてテントへ。オレンジコートからキャンプサイトまで、約40分かかった。

 ここで頭の地図が完全に像を結んだ。そして思った。

 フジの会場は、やっぱりデカイ。そして広い。

 と。

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